今晩、どこに帰るの?

「こんなところに家あるなんて、知らんかった」
茶の間にじっと座っていた母が、「今晩どこに帰るの?」と言い出した。
ここが自分の家だから、どこも帰らないと言ったら、「知らんかった」と返って来た言葉だ。
昨夜は「起きれない、起こして」と言うので起こしに行けば「起きて何すればいいの?」とすぐ横になるのを5分置きに繰り返されたので、起こしに行くのをやめて寝てしまった。
朝、オカンが出掛ける支度で動き出したのを機にベッドを見れば母は腰掛けたままだった。
見に行けば下着ぐっしょり、下に敷いたシートもお月さんどころでなかった。
自分で起きて座っていることもあれば、「起こして」と叫んでは起きてもすぐ寝る。なんともわからないが、本人に確かめようもない。
この頃、とみに耳が遠くなって来ているから耳元で声を掛けないと聞こえる左耳の方を探す。
どんな世界にいるのだろう。